ザンボットを見て

 僕ははっきり言って富野監督の”みな殺し”が大嫌いだ。人がボンボン死んでいく描写は見てて不快感を感じる。

 もちろん、誰も死なないロボットアニメが優れているというわけじゃない。まがりなりにも戦争というものを描いているのに、誰1人死なない戦争なんてのは、むしろ戦争の悲惨さ、残酷さを隠している感じがする。実際、戦争映画の古典を見てもやはり人が死ぬ場面は多い。

 しかし最終話やその前の話でいきなり人が突然ボンボン死ぬ、死に様がとってつけたようで無理矢理死なせたかのようなのは納得できない。”死”というものは本当に重いものなのだから、物語上で人が死ぬ時はその死にちゃんと意味があるべきだと思う。このキャラクターはこういうキャラだからこの状況で死ぬべくして死んだ、ストーリー上で必然性がありこのキャラは死んだ、という納得できるものでないと。

 

 富野監督の”皆殺し”が見てて不快感を感じるのは、死ぬことに必然性がない場合が多いからだ。

 例えば「ダンバイン」。まず皆殺しの先鋒となったのはエレ、そしてリムル、エイブ。しかし彼らの”死”はまだ納得できる。彼らの死の描写が凄まじかったからだ。黒騎士のオーラ力を抑えようとして体が壊れてしまったエレ、母親に撃ち殺されたリムル、敵艦に特攻したエイブ。しかしこれ以後の”死”の描写はかなりぞんざいで最終話の中で次々と忙しくどんどん死ぬ。無理矢理死んでしまった(殺された)感じがする。敵とぶつかって死んだキーン、突然相撃ちになって死んだマーベル、流れ弾に当たって死んだニー。

 「Zガンダム」においてはエマ1人を助けるためにヘンケンと戦艦ラーディッシュの乗組員が死亡。しかしエマも結局は死んでしまう。一体彼らは何のために死んだんだろう。カツの死に様に至ってはギャグとしか思えない。

 「ガンダムZZ」では終盤死ぬためだけにサラサとエマリーが再登場する。

 「Vガンダム」のシュラク隊はリガ・ミリティアの「精鋭部隊」ではなくまるで「使い捨て部隊」。

 

 「ザンボット」は”みな殺し”の富野監督のルーツとも言えるアニメであり、ストーリーはかなりヘビーだったし、特に人間爆弾の凄惨さは「ザンボット」を語る上で絶対欠かせない。そして終盤は人がボンボン死ぬ。

 まず先陣をきったのは勝平のおじいちゃんとおばあちゃん。

 そして次にお父さんが死ぬ。

 そして今まで「ザンボット」のパイロットとして勝平と共に闘っていた従兄弟の神江宇宙太と神北恵子が特攻。彼らはまだ14歳だった。

 そして勝平を助けるために兄や叔父さん達が死ぬ。

 飼犬の千代錦すらも死んでしまう。

 結局ガイゾックを倒すために宇宙に上がったメンバーは勝平を除いて全て戦死。

 しかし「ザンボット」と他のアニメとは若干違う点があると個人的には思っている。

 多くの仲間の犠牲を乗り越えて勝平がガイゾックの中枢コンピュータまで辿り着いた時、コンピュータは勝平にガイゾックの正体を明かす。ガイゾックは宇宙から悪意に満ちたものを排除するために作られ、ビアル星も地球も悪の心に満ちていたから排除するのが宇宙のためだと言う。今まで辛い思いばかりしながら闘ってきた、そして多くの仲間がさっき犠牲になった、そんな状況でその戦いの正当性を否定されてしまう。

 さらに「本当に家族や親しい友人を殺してまで守る必要があったのか。悪意のある地球の生き物がお前達に感謝してくれるのか」「お前達は勝利者となった。しかしお前達をやさしく迎えてくれる地球の生き物がいるはずがない。この悪意に満ちた地球にお前達の行動を分かってくれる生き物が1匹でも居ると言うのか」と言われる。とことん容赦ない。

 しかし気を失いながらも勝平は地球に戻った。そして地球では暖かい手が待っていた。

 地球には勝平の母親を初めとして今まで同じ立場で闘ってきた人たちが一応居たんだけど、しかし勝平を最初に見つけたのが彼らではない、というのがポイント。勝平のもとに最初に駆け寄ったのはケンカ友達の香月とガールフレンドのミチ。初めから勝平と同じ環境に居た家族ではなく、「初めは勝平に対して憎しみをぶつけていたけど徐々に勝平のことを信じるようになった」人達がまず駆けよる。そして最後のシーンでは街の人達が次々に勝平のもとにかけよってくる。物語前半で神ファミリーにあれほど憎しみを抱いていた人達が駆け寄ってくるこのシーンは「ザンボット」のテーマとも言うべきものがハッキリと出ている。

 たくさんの辛い思いをしてきたけれども、かけがえのない仲間や家族を失ったけれども、しかし100%ガイゾックのコンピュータが言った通りにはならなかった。そういう意味で「ザンボット」におけるみな殺しが全く意味のない、必然性のないものだったとは言い切れない。


管理者:中霧里五
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