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Episode34 「決着の時(前編)

 出撃して早々、圧倒的な戦闘力で敵の主力であるアファームド小隊を殲滅したカインの駆るテムジンの動きに、バッド・ムーン小隊のジュリア達は目を見張った。最初は後方からの支援に徹していたのだが、敵部隊の指揮官機と思われる女性型VRが現れた途端、何かに取り付かれたかのようにその指揮官機を追いかけた。そして、一瞬のうちにアファームド三機を撃破し、更に立ち塞がった重装甲の新型VRドルドレイまでも倒してしまった。そして今、テムジンは強烈な精神干渉波を出す特殊な敵の機体と対峙し、壮絶な激闘を繰り広げている。そのテムジンを、三機はただ見ていることしかできなかった。

「何て強さだ、あいつ・・・。英雄なんて大層な異名がついているからどんな腕前かと思っていたけど、半端じゃないよ・・・」

リンは自分のこれまでの戦いが全て否定されてしまったかのような敗北感を覚えた。カインの戦い方を見た時、決して自分には真似ることの出来ないものだと直感的に悟ったのだった。完全にVRを一体化しているその動きは、もはやMSBSによる機体制御の限界を遥かに超越していた。少なくとも、最新のVR制御機能であるMSBSver5.2にも、あのような動きは出来ない。しばらく呆然と立ち尽くしていた三機だったが、ジュリアはすぐに頭を切り替えて判断を下した。

「やむを得ん。ここは彼に任せて我々は主力部隊に合流する」

「獲物を目の前でさらわれて、援護も出来ずに主力部隊に合流だって!?本社に何て報告するの!?」

噛み付こうとするリンにジュリアは厳しい表情で、しかし静かに諭した。

「メイシャン准尉。悔しいのはわかるが敵が精神干渉波を発している以上、対精神防御の施されていないテン・エイティAではナスカ少尉を援護することは出来ん。我々の仕事はまだ残されている。それは苦戦している主力部隊の支援だ」

彼女自身、カインの援護もしないままこの場を去ることに躊躇がないわけではない。本心では彼を救いにこのまま突撃をかけたいところだ。だが、それは不可能なことだ。自分勝手な判断は小隊長として決して許されることではない。ジュリアは幾つもの戦場で判断を誤り、部下を死なせた愚かな隊長を見てきた。隊長は常に冷静でなくてはならない。個人の感情で動くべきではないのだ。ジュリアの顔を睨みつけるリン、しかし、彼女の厳しい表情の理由が、彼女を諭す為だけではないことを知った時、リンは小さく頷いた。

「わかったよ・・・。くそ!」

「ディアス中尉、主力部隊のグリスボックが一機撃破された模様です。急がないと手遅れに・・・」

ライカの報告がその場の空気を張り詰めさせた。最新のVRを配備したRKGの主力部隊が壊滅させられる危機に瀕している。時は一刻を争った。

「バッド・ムーン小隊、任務変更。RKG主力部隊を支援する!」

「了解」

ライカは格納庫群の反対方向へ機体を転進させつつ、心臓の鼓動が大きくなるのを感じた。デイビットの顔が一瞬浮かび、グリスボック隊の壊滅した光景が頭をよぎる。戦闘中に考え事は禁物だと訓練で教えられてきたはずだが、ライカの脳裏に不吉な予感が張り付いて離れなかった。三機全速力で加速すると、主力部隊への合流を急いだ。

 

 

デイビット率いるグリスボック隊はドルドレイ四機を相手に苦戦を強いられていた。先ほど一機がカインのテムジンによって瞬時に撃破されたようだが、その内容たるや全く目前の敵に対する攻略の参考にならなかった。

「近接戦闘距離にまで踏み込んでソードでVRの弱点である首を撥ねるだと?ふざけんな!そんなことができるかってんだ、このグリスボックに!」

仮にこの部隊が全機テムジンで構成されていたとしても到底、無理な話だ。幅にして数十センチメートル、その僅かな隙間に向かってエースパイロットの駆る最新VRドルドレイの一瞬の隙を突いて首を撥ねるなど、常人の芸当ではない。カイン・ナスカ少尉の驚異的なバーチャロン・ポジティブと操縦技術の成せる技だ。

先ほどからグリスボック隊は一定以上の距離を保ちつつ、地道にミサイルのよる力押しの攻撃をしているが、巧みな回避と強力なVアーマー、そして敵からの連続攻撃にさしたる効果を上げなかった。戦線をじわりじわりと押し上げられ、グリスボック隊は後退を余儀なくされている。弾薬は残り少なくなり、デイビットは焦りを感じていた。コックピットのモニターに表示されるミサイル残弾数が三十パーセントを割り込む。先ほどフルリドードせずに出撃したことが今になって影響してきている。

「どうする?何とかやつらの足を止める方法はないのか?」

敵の繰り出すファイヤーボールがすぐそばの足元に着弾して爆発を起こす。その爆風で、デイビットのグリスボックは体勢を崩された。機体が大きく反り返り、後ろへ倒れこみそうになる。そこに、敵機から発射されたクローアームが襲い掛かる。デイビットは倒れ込む寸前に、左腕からナパームを投函し、爆炎でクローを焼き払った。尻餅をつくと同時にクローアームの方向を変えることには成功したが、それ自体には損傷が殆どない。表面を若干焦がしただけだった。一体どんな構造材でできているのか。恐らく非常に高効率のVコンバータによってリバース・コンバートされたものなのだろう。強度の桁が違う。こちらを攻撃してきたドルドレイの一機がこちらに向かって単独で突っ込んでくる。そしてドリルをかざして特攻形態をとった。

「よくもカルロスをやってくれたね・・・!お前達はあたしを本気で怒らせた。もう、ミッションなんか関係ない!お前らを一人残らず殺さなきゃ、あたしの気が済まない!!」

ミランは怒気の含んだ声を開放回線に流した。心なしか声が涙ぐんでいるように思える。その次の瞬間、ドリルを突き出してミランのドルドレイが超高速で突進してきた。もはや見てからパイロットが反応して回避することは不可能なほどの加速だ。あっという間に一機のグリスボックを宙へ跳ね飛ばし、もう一機、後方のベルグドルにも迫る。

「やばい!ベルグドルをやらせるな!」

デイビッドが叫ぶも、遅かった。飛び上がって避けようとしたベルグドルは両足をドリルに引き裂かれて大きく飛ばされた後、地面に叩きつけられてその場で頓挫してしまった。ドルドレイは速度を緩めることなく旋回して跳ね飛ばしたグリスボックの落下際をもう一度跳ね飛ばし、全身を砕いた。パイロットは直前で脱出したものの、グリスボックは五体をばらばらに引き裂かれて無惨な死骸となった。

「さあ、次に死にたい奴は誰だ!あたしの前に出てきな!」

圧倒的な破壊力を見せつけたドルドレイ、そのコックピットの中には、般若のごとき怒りに取り付かれたミランがいた。聞くものを震え上がらせる低音の効いた怒声が開放回線で戦域に響き渡る。

「ミランの兄貴、ここは俺にやらせてくれ。あいつはいけすかない奴だったが、仇は取ってやんなくちゃな・・・」

そう言って出てきたのはジャッカルだった。コックピット内で拳をわざとらしく鳴らして操縦桿を握りなおす。

「さっきまでは手加減していたが、もうそうはいかねぇぞ?覚悟しやがれよ、お前ら」

「久々の戦いだったからもっと楽しみたかったけど、カルロスがやられたとあってはそうも言っていられないね。とっても残念だけど、一瞬で勝負を決めさせてもらうわね?」

サキュバスは唇をひと舐めして、優しく、しかし極めて不気味な艶のある声で囁いた。

「僕、もう怒ったからね〜」

とてもそうとは思えないほどのんきな声でしゃべるフラック。しかし、ドルドレイの両腕を頭の上で何度も叩き、RKGを威嚇した。声はともかく、本気であることは確かなようだ。

「いくよ、お前たち!」

「おう!」

「わかったわ、ミラン姉」

「うっほほーい!」

ジェノサイダー部隊の動きに明らかに変化が出始めた。カルロスを撃破されたことでミランが怒り、それをきっかけとして、今まで本気を出していなかった彼らの猛攻が始まったのだ。

「おらおら、てめーら!!みんなまとめて地獄行きだ!」

ジャッカルはドリルをかざして突撃してきた。

「全機、上方へ回避!」

ミミーの指示どおり、RKGは空に逃げた。そのまま空中でブーストを吹かして部隊を左右に分け、着地と同時にデイビットのグリスボックはドルドレイ三機に、ミミーは猛スピードで通過していったジャッカルを狙った。慎重にサイトをあわせるなど彼女の性に合わない。いつでも自分の直感だけが彼女の命をつなぎとめて来た。唯一、戦場において百パーセント信用できるもの、それは戦士としての直感だけだ。

「そこだ!!」

大きくUターンして再びRKGに襲い掛かるべく旋回してきたジャッカルに対して、ミミーはレーザーを放った。先ほどハンマーの直撃を受けた左肩が案の定、装甲の歪みで展開しない。しかし、ミミーは右のレーザー一本だけで構わず撃った。一本といえど、その威力はVR程度を一撃で灰になるほどの威力を持っている。その狙撃は過たず、一直線にジャッカルのドルドレイの頭部付近を貫いたかに思えた。だが・・・。

「何だと!?レーザーが効いていない!?」

「ぐわっはっはっはっは!!」

何と、ジャッカルのドルドレイはレーザーを真正面から受けているにも関わらず、その突進速度を緩めるどころかむしろ増してきているようだった。注ぎ込まれるレーザーの光の帯に向かってどんどん突き進んでくる。いかにドルドレイでも、通常の状態でライデンのレーザーを受けたのならば決して無事では済まされない。しかし、このドルドレイの必殺攻撃「ドリル特攻」モードが発動している時、ドルドレイは搭載しているVコンバータの出力を最大にして機体の全方向にあらゆる兵器による事象干渉を押し戻す強力無比な仮性ゲートフィールドを形成する。電脳暦の科学力ではこの仮性ゲートフィールドに包まれた状態のドルドレイを撃破する攻撃方法を作り出すことが出来ない。

「きゃあああぁぁぁ!!」

ミミーのライデンはジャッカルの突進を受けて吹き飛んだ。きりもみ状に回転しながら地面に叩きつけられた。その拍子にフラットランチャーを落としてしまう。損傷の度合いは比較的小さい。ドリルの特攻を喰らう瞬間に機体を僅かにずらし、直撃を避けたからだった。しかし、それでも右脇腹のあたりが大きくえぐれてスケルトンが剥き出しになっている。ミミーは月の地面を映し出しているモニターに向かって怒りの形相を突きつけながら、独り言のように唇をかみ締めながら呟いた。

「まだいける・・・。こんな連中に好き勝手やられて黙っている私たちじゃない。本気を見せてやる!いくぞ、ライデン・・・!!」

ミミーは操縦桿を引き起こして、ライデンを立ち上がらせようとする。機体の各所が上半身を起こすと同時に金属が軋む嫌な悲鳴をあげる。それでも構わずにミミーは操縦桿を引き上げる腕の力を強めた。

「ふん、今すぐカルロスのところへ送り届けてやる!」

今度はミランのドルドレイが特攻をかけてくる。目標は起き上がろうとして四つん這いになっているライデンだ。

「くそ!やらせるかよ!」

そこに、デイビットのグリスボックが立ち塞がった。弾薬の残りなど気に留めずにミサイルを連射して弾幕を張り、ミランの突進を食い止めようとする。しかし、グリスボックのミサイルではドルドレイの特攻をとめることは不可能だった。ミランは構わず機体をグリスボック目掛けて真っ直ぐに向けた。

「そんな支援機で何が出来る!一緒に胴体をぶち抜いてやるわ!!」

「くそ!!来やがれ、ドリル野郎!!」

デイビットはミサイルの発射を止めてグリスボックの重心を下げて身構えた。

「そう、そんなに死にたいなら、まずはお前から殺してあげるよ!」

ドルドレイはドリルを突き出して、最大加速で猛突進をかけてくる。ドリルの回転音が唸りを上げて空気を震え上がらせる。その振動に、出力の全開になったVコンバータの回転音が重なる。爆音とともに地面が抉れて土砂が舞い散った。同時にドルドレイが大砲の弾のごとく飛び出した。

「デイビット隊長!!」

「ルース少尉!」

「うおりゃああ!!」

デイビットは限界までドルドレイを引き付けて、僅かに立ち位置をずらしてドリルをグリスボックの脇で抱え込んだ。強引に押さえ込んで突進を止めるつもりだ。

「馬鹿な奴!スケルトンまで粉々にしてやる!!」

激しいドリルの回転はグリスボックの腕部をみるみるうちに大鋸屑を削り出すように破壊してゆく。装甲が剥がれてその破片が一面に飛び散る。グリスボックのコックピットでは警告の為の警報がすぐ外で破壊されていく装甲の衝撃で聞こえなかった。全身がまるで最大級の地震のように縦に揺るがされて、視界が定まらない。しかし、これだけの密着距離ならば目測さえも必要ない。目の前に向かってトリガーを引けば攻撃は必ず当たる。

「落ちやがれ!!」

デイビットは歯を食いしばって操縦桿を握りしめ、ボックVRの前面にある小型腕に装備しているマシンガンを密着状態でドルドレイの頭に向けて連射した。Vコンバータの形成する仮性ゲートフィールドの内側で放たれるマシンガンの弾丸が、平たいドルドレイの上部装甲を撃ち抜いていくつもの穴を空ける。ドルドレイの鉄壁の装甲に明らかなダメージが現れた。表面だけでなく、内部機構にも打撃を与えていく。

「ちい、うっとうしい男は嫌いだよ!」

ミランはこの一見無鉄砲な、しかしこのドルドレイを破壊する的確な方法を取ってきたグリスボックに対して苛立ちと焦りを感じた。このままでは、Vコンバータユニットに弾丸が達してしまう。そうなれば、いくら堅牢な機体であってもリバース・コンバート状態を維持できずに消滅してしまうことになる。

「ルース少尉!!」

こちらに向かって一直線に突っ込んでくるもつれ合った二機のVRを、ミミーはライデンを立ち上がらせて回避動作に入った。フルブーストをかけて斜め後方に飛び退く。衝突寸前で二機が突き抜けていった。あたかも暴走している闘牛と戦っているマタドールのようなデイビットだったが、既にグリスボックの右腕は完全に機能不全に陥り、同時に本体であるボックVRの損壊も酷い。スケルトンが破れた装甲の間から覗きはじめ、内部で損傷によるスパークが連続で発生している。それでもデイビットはドルドレイから決して離れなかった。不屈の闘志でマシンガンを連射する。ミランはドルドレイを旋回させて方向転換し、付近のクレーターの淵に激突させた。激しく壁に叩きつけられたデイビットはその衝撃をコックピット内で直接受けた。重力という名の見えない巨大なハンマーがデイビットの身体を容赦なく砕いた。

「ごはっ!」

体内で何かがへし折れる違和感を覚えた。あばら骨が折れた。気を失わないのは、デイビットが死線を何度も潜り抜けてきた歴戦の戦士だからだった。普通のパイロットであれば、この衝撃を受けた瞬間に全身の骨という骨がばらばらになって死に至っていたところだ。ヘルメットのバイザーが血で曇り、視界が真赤に染まる。それでもデイビットは操縦桿から手を離すことなく攻撃を続けていた。

「くっ、このままじゃ・・・!」

堪らずミランはグリスボックから離れた。それが狙いだった。

「この距離なら、どうだ・・・!!」

比較的損傷の少ない、といってもかろうじて動く程度の状態だが、左腕が展開し、そこから特大のナパーム弾があらわれた。この距離ならば確かに外さない。致命傷を与えることも出来るだろう。しかし、同時に自分自身も爆発に巻き込まれてしまう。

「こいつ!最初からこれを狙って・・・!!?」

「死にやがれ、オカマ野郎!!」

「自分も死ぬ気なの!?」

デイビットはトリガーを最後まで引き絞るその時まで、全く躊躇しなかった。ランチャーからナパーム弾が勢い良く発射された。回避は絶対的に不可能だ。ナパーム弾がミランの機体に直撃し、大爆発を起こした。一帯は瞬く間に炎上し、火の海と化す。ナパーム弾の発生させる特殊な高熱の炎はVアーマーを突き抜けて装甲を焦がした。直撃を受けたミランのドルドレイは当然ながら、機体を大きく損傷した状態でこの炎に巻き込まれたグリスボックはひとたまりもなかった。装甲は飴のように溶けて流れ出し、剥き出しのスケルトンを蝕み始める。デイビットにはもはやここから脱出する体力も気力も残されていなかった。灼熱の炎が遂にコックピットまで焼き払おうとしたその時、不意に身体が軽くなるような浮遊感がして、痛むあばらを抑えながら片目でモニターを見た。モニターには流れる大地の光景があった。誰かに担ぎ上げられて移動している。VRの脚部らしきものが映っている。ミミーのライデンだ。ミミーは爆炎の中を一直線に飛び込んで、速度を緩めないままグリスボックを抱え上げると、そのまま炎の真っ只中を突っ切って離脱した。

「ルース少尉、生きてる?」

「あんたか、サルペン中尉・・・。あんたのライデンだって装甲はぼろぼろのくせに、無茶しやがって」

「何言っているの。あなたほどじゃないわ」

ミミーはモニターに向かって微笑むと、ブーストダッシュにドルドレイ隊を振り切って後方のクレーターの影にグリスボックを降ろした。

「ご苦労様、ルース少尉。ここで休んでいて。後は私たちで何とかするから」

せっかく微笑みかけてくれた彼女の微笑はヘルメットのバイザーにこびり付いた血反吐で見えなかった。だが、後でゆっくりもう一度見せてもらえばいい。

「わりいな。だが、あの野郎はくたばったはずだ。残りは三機だ・・・」

「誰がくたばったって?」

「何!?」

ミミーもデイビットも自分の耳を疑った。あの距離で特大ナパーム弾の直撃を受けて、まだ生きているというのか。

「直撃だったはずだ!そんな馬鹿な!」

デイビットは力んだ瞬間に折れたあばら骨の激痛で胸を押さえた。

「ふん、なかなか根性の入った奴もいるもんだね。今のはさすがにやばかったよ。カルロスがやられたのも、偶然じゃあないってことか・・・。でも、このドルドレイを撃破するまでには至らなかったようだね」

ドルドレイの誇る強固な装甲は表面が全て焼け爛れ、その意味を失っていた。左腕のドリルも遠隔操作用の発射機構が熱で融解している。しかし、足元はしっかりとしており、まだまだ動く分には充分なほどだった。ミミーは背筋に冷たいものが流れるのを感じた。今のRKGの通常装備では、この新型VRを撃破することは不可能だ。やはり、核ナパームミサイルを使うしかない。ちらりとサイドモニターで先ほど下半身を破壊されたベルグドルをみる。必死で上半身を起こそうと両腕を踏ん張っている。

「十一号機、まだ動ける?」

「下半身ユニットは完全にダメですが、ミサイル発射機能は生きています。ターゲットが止まれば、やれますよ」

心強い返答に、ミミーは満足げに頷いた。後はどうやって足を止めるか、だ。にらみ合いを続けながらミミーは思案をめぐらせる。その時、ミミーにライジング・キャリバーから通信が入った。マルファスだ。モニターに映る顔が輝いている。朗報に違いない。

「ミミー、まだ生きている?」

「間に合ったの?」

「今からカタパルトでうち出すから、空中で受け取って!」

「了解!」

ライジング・キャリバーのカタパルトデッキで、マルファスはライデンのバズーカランチャーをクレーンで固定した。手動でカタパルトを撃ち出す準備をすすめる。

「いいかい、勢いが強すぎるとバズーカは明後日の方向に飛んでっちゃうから、気をつけるんだよ!」

管制室からマイクで怒鳴る。進路クリーンの信号が、ブリッジのキースから入る。カタパルト周辺からスタッフが一斉に退避した。発進用のシグナルが赤から黄色、そして緑に変わる。

「発射!」

マルファスの号令でカタパルトにのったバズーカランチャーは勢い良く、真っ直ぐにミミー達の戦っている戦場へと飛び立った。