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Episode37 「アース・クリスタル解放

 巨大兵器から繰り出される放射状のレーザーの前に、傷ついたフェイ・イェンを両腕に抱えたアベルに成す術は無かった。避けきれない!アベルは覚悟を決めて、目を閉じた。少女を強く抱きしめる。不意に背後で軽快な反射音がしたかと思うと、レーザーはアファームドを貫くことなく、何かによってその行く手を阻まれていた。はっとして振り返るアベルの目の前には、白金の輝きを放つひし形の氷の盾があった。その盾がクリスタルから連続で発射される超高出力のレーザーを全て弾き返していく。

「アベルーーー!!!」

聞き覚えのある声が、どこからともなく聞こえてきた。その声にアベルは反射的に反応し、その者の名を呼んだ。

「トヨサキ君、君なのか!?」

声のした方角にアファームドの頭部カメラを向ける。すると虚空に突如、ゲートフィールドが形成され、そこに数字と文字の羅列で構成されるモザイク模様が現れた。やがてそのモザイクがはっきりとその姿を示し始め、アベルは天使の翼を持つVRが空間から飛び出してくるのを見た。アファームドの腕の中に抱かれていたフェイ・イェンは、その姿を見るなり歓喜の声を上げた。

「ああ!お姉さま!お姉さまだぁ!!」

「フェイ・イェン!無事で何より、何とか間に合いましたか・・・」

天使型VRは八角形の部屋を大きく旋回しながら、器用にレーザーの隙間を潜り抜けていく。そして、クリスタルの装着されている杖『対偶の法杖』から氷の霧を放ち、敵の注意を引き付けた。巨大兵器はクリスタルを再び腹の中に収め、天使に向かって放射状に撃っていたビーム砲を集中させた。

「アベル、今のうちに彼女を!その鏡も長くは持たないわ!」

「わかった!」

ランの声に従って、アベルはフェイ・イェンを抱え上げると、ブーストダッシュで部屋の反対側、巨大兵器から最も遠い対角線上の位置に即座に移動し、そこに彼女を座らせた。翼を持ったVRは大きく部屋を回りこんでアベル達の上空に到達すると、彼らのそのすぐ側に、鳥が翼を羽ばたかせて一度浮遊するように空中に停滞してから、ゆっくりと降り立った。アベルは先ほど、声の主が二人いることを確認しようとランに問い掛けた。

「君が操縦しているのか?」

「ううん、違うよ。驚くかも知れないけど、このVRは意思をもっているの。詳しい説明は省くけどね」

「やはり、そうか・・・。すると、君が彼女の『お姉さん』というわけだな?」

「はい・・・」

天使が頭部バイザーを光らせながらアベルの質問に答える。ランの予想に反して、アベルの対応は冷静だった。もっと驚くかと思っていたので、ランは若干拍子抜けしたが、今はそんなことに構っている暇はなかった。まずはこの絶対的な危機を乗り切らなくてはならない。

「アベルさん、私はこの子の傷を治療します。その間、『ブラッドス』の注意を引き付けておいて下さいませんか?」

「了解した。彼女を頼む」

天使の、頭に直接響く声に、アベルは一つ頷いて、前方へ走り出した。ビームトンファーのソニックウェーブを繰り出して、ブラッドスの放つビーム砲を相殺しながら接近していく。その間に、ランは振り返って少女型VRの側に屈みこんだ。

「どう、直せそう?」

不安げな声を出すランに、天使は優しく答えた。

「ラン、安心してください。今、傷口を局部的にリバース・コンバートします」

天使がフェイ・イェンの負った足の傷に手をかざす。光の帯が彼女の手の平から発せられると同時に、傷口も見る見るうちにもとの姿を取り戻していく。その光が終わるや否や、フェイ・イェンはすぐに立ち上がると、ブラッドスの方へ走り出した。

「ありがと、お姉さま!今度こそ、あのクリスタルを助けてあげるんだから!」

「待ちなさい、フェイ・イェン!闇雲に戦っても、アース・クリスタルの力を利用してリバース・コンバートしているあの拘束具を破壊することは到底出来ません」

「じゃあ、どうすればいいの!?」

フェイ・イェンは焦れて両手を握って縦に振った。天使は一つ頷いて、彼女を諭すように言った。

「先ほどクリスタルが直接的なレーザー攻撃を仕掛けてきましたね?あれは、正確に言えば攻撃ではなく、『放熱』なのです。即ち、幻影結晶拘束体『ブラッドス』によって強制的にその活性化状態を封じられたクリスタルは、内部に膨大なエネルギーを蓄積させます。それが臨界点に達すれば、いくらブラッドスが堅牢でもたちまち積み木のように崩れ落ちるでしょう。そうならないように、ある一定のレベルにクリスタルの力が高まった時、その力をレーザーという形で、外部へ逃がしているのです」

その説明に、アベルが通信で割り込んだ。

「わかったぞ。クリスタルが剥き出しの状態で攻撃してくる時は、クリスタルの力が高レベルに達しているということ。そこに、更に直接強烈な負荷をかけてやれば・・・」

「はい。クリスタルの活性化エネルギーを拘束体が押さえきれなくなって、自壊します」

アベルはブラッドスの周りをまわりながらビーム砲を的確にかわしていく。そこに、今度は長方形の形をした、同じくエネルギー攻撃が繰り出されてきた。横幅が広い為に、回避が非常に困難だ。しかも、高さを微妙に変化させながら壁のように弾幕を張り巡らせてくる。どうやらこちらの動きを学習して、より命中率の高い攻撃をリアルタイムで開発、同じくリアルタイム・リバース・コンバートで攻撃をしてきているようだ。アベルはそれらの複合的に発射される複雑な弾幕の中を、バーチカル(直角)・ターンを駆使してすり抜けた。

「トヨサキ君、俺がクリスタルに直接攻撃をしかける!君は何とか奴にレーザー攻撃をやらせるように仕向けてくれ!」

「わかったわ!」

ランは頷いて、目を閉じた。天使の翼が大きく一度広げられ、一気に上昇する。そして、部屋の天井に達しようかという高さにまで上昇した時、『対偶の法杖』から氷の結晶を作り出した。

「いけ!」

結晶は急速に固められて鋭い『つらら』となり、ブラッドスに向けて放たれた。だが、いかなる攻撃をも寄せ付けない強力無比なブラッドスのVアーマーは、天使の作り出した氷の矢さえも問題としなかった。これではブラッドスにかける負荷が小さすぎて、クリスタルの放熱作用を誘発するには至らない。かといって、いたずらに時間を稼げば危険が増す一方だ。アベルもランもVクリスタルから放たれる強烈な精神干渉波を相当受けている。ランは天使の中にいてその精神を保護されているが、アベルの精神は裸同然、いつ重度のバーチャロン現象を引き起こしてもおかしくないはずだ。今のところ、不屈の闘志と意志の強さで何とか持ちこたえているものの、彼にも限界がある。

「ラン、もっとイマジネーションをひろげて下さい。もっと強い、もっと大きな力を想像してください。私がそれを最大限の力で具現化します。ブラッドスを追い詰めるには、それしかありません」

「大きな、力・・・」

天使の言葉にランは再び目を閉じた。そして、自分が想像しえる最高の力を持つ存在を心の中にイメージした。そのランの想像した力が天使のVコンバータに直接的に情報として流れ込んだ。天使は頭部のバイザーを輝かせ、輝くクリスタルを備えた魔法の杖をを天高く掲げた。

「きた!」

ランは思わず叫んだ。空間が割れて、そこに大きな穴ができる。次元間を繋ぐトンネルだ。そこから現れた巨大な存在に、フェイ・イェンもアベルも言葉を失った。

「うそ、でしょ?」

「これは・・・!」

鼓膜を突き破らんとするほどの雄叫びをあげながら、二匹の巨大な龍が虚空より出現した。全身を永久凍土の氷でできた鱗で覆われた、異形の龍がその凶暴な顎をもってブラッドスに襲い掛かった。そして、二匹の龍はブラッドスを縛り付けるように自らの身体を巻きつけた。鉄壁の装甲に氷の八重歯を突きたて、その巨体でブラッドスを一気に締め上げた。ブラッドスの動きが停止し、金属が軋む不快で鈍い音が響き渡る。もしや、このまま・・・。その場にいる全員がそう思った瞬間、龍が絶叫をあげ始めた。苦しそうに首を激しく振って逃れようとするも、ブラッドスは容赦しなかった。龍の身体が引き裂かれ始め、その氷の鱗に縦の亀裂が走った。ブラッドスはクリスタルの力を解放する際の力を利用して、二匹の龍の身体をばらばらに引きちぎってしまった。氷の結晶が、周囲に飛び散り、その破片を受けて、天使はひるんだ。

「きゃあ!」

「くうっ!」

天使の中にいるランも、彼女のいる空間そのものが激しい揺れに襲われた。だが、そこで力を高めすぎたのか、ブラッドスは動きを数秒停止させた。アベルは直感的に感じた。チャンスは今しかない、と。アベルはアファームドを突撃させ、ブラッドスに急接近した。クリスタルが解放される際に放つ一撃目を回避すれば、二撃目までにはトンファーを叩き込むことができる。

「危ない!アベル!!」

フェイ・イェンの声がアベルの頭の中に飛び込む。その時だった。

「何!?」

クリスタルから放たれるレーザーが先ほどものよりも遥かに強力になっていた。先のレーザー攻撃を上回る出力のものが、束になってアベルを襲った。弾幕のように張り巡らされたレーザーの網の前に、突撃途中のアベルのアファームドは回避する術を持たなかった。レーザーが今正に、アファームドを蜂の巣にしようとしたその一瞬前に、背後からの激しいベクトルを受けてアファームドは体勢を崩した。ベクトルと同時にアベルを包み込んだ桃色の光はしかし、ブラッドスから放たれたレーザーをことごとく弾き返してしまった。それは、フェイ・イェンの放ったエモーショナル・アタックだった。

「あたしの力をあなたにあげる!だから、クリスタルを助けてあげて!!」

フェイ・イェンの叫びがアベルの全身を突き抜けた瞬間、それは起こった。

「うおおおお!?」

にわかにアファームドが眩い光を放出しながら金色一色に包まれたかと思うと、背部のVコンバータが唸りをあげ始めた。かつてないほど超高速回転するVディスク、そして両肩の後部から排出される虹色に輝くVコンバータの自律放熱ブラスト、同時にアファームドのジェネレーター出力が急激に上昇した。コックピット内のメーターは完全に振り切れてしまっている。機体各所の無数の傷や故障は瞬く間にリアルタイム・リバース・コンバートによって回復していき、ビームトンファーは通常の三倍以上の長さと太さになっている。それは周囲に雷をまとい、振りぬくごとにVRの背の丈を凌駕するほどの竜巻を呼び起こした。それはあたかも、雷神トールの持っていたとされ、巨人たちを恐れさせた、一振りするごとに天地を覆すほどの嵐と雷を呼ぶという伝説のミョルニール・ハンマーのようだった。変化が現れたのは、アファームドだけではなかった。アベルの身体も同様だった。度重なる戦闘、息つく暇のない緊張の連続からくる肉体、精神を蝕んでいた疲労が嘘のように吹き飛び、全身に力がみなぎってくる。湧き上がる興奮と勇気、全身を駆け巡る電撃のような溢れんばかりの『氣』。アベルは操縦桿を握りなおし、正面モニターを覆い尽くす巨大兵器に向き直った。ブラッドスを睨みつけ、そして、一直線に懐へ飛び込んでいく。クリスタルから放たれる弾幕のようなレーザー攻撃でさえも、今のアベルを止めることはできなかった。飛び上がって空中で機体をそらせながらひねりを加えて回転、紙一重でレーザーをかわすと、ジャンプの勢いでクリスタルに迫った。

「Vクリスタルよ、解き放て、その力を!!」

竜巻を発生させながら周囲に散らばる壁の破片を巻き上げて、トンファーが唸る。そのハンマーがクリスタルに叩きつけられた。金属同士が激突する爆音が一つ、部屋全体に響き渡った。ランも、天使も、フェイ・イェンもこの戦いの結末を固唾を飲んで見守った。トンファーを振りぬきつつ、大きく跳躍して反対側に着地するアファームド。一瞬、ブラッドスの動きが完全に停止した。

「ふん!」

アベルは機体をブラッドスのほうへ振り向かせ、トンファーの展開している両腕を頭部の前でクロスさせ、気合の声とともに十字を描いて振り下ろした。ブラッドスが轟音を立てながら崩れ落ちる。巨体を支えていた八本の足が力なく崩れ、床に落ちた。クリスタルはその中心で徐々に光を強めていく。クリスタルの自由を奪っていた拘束具はクリスタルの放つ膨大なエネルギーの前にその実体を維持できなくなり、リバース・コンバートが解除されていく。一度、そしてもう一度クリスタルが光を放ち、ブラッドスは跡形もなくその姿を虚数空間へと霧散させた。

「やったぁ!!」

フェイ・イェンとランは同時に歓喜の叫びをあげた。アベルはアファームドのマニピュレーターの親指を立てて、二人の声に答えた。クリスタルの放つ光はその輝きを拡大し、その場の一切を白一色の世界へと変えていった。否応無くその光に飲み込まれていくアベル達だったが、先ほどのような凶暴な精神干渉の類は一切なかった。アベルがはじめて触れたときの、あの安らぎと慈愛に満ちた優しい光だった。アベルはその眩い白の世界へ、意識と身体を光の波に揺られるごとく委ねていった。やがて光は遺跡全体を包み込んでいった。中心部の遺跡から、天を貫くがごとき光の柱が空に向かって伸びていく。その光の筋は真っ直ぐに月の大地を目指して飛んでいった。

 

「うう・・・」

「終わりにしましょう!カイン・ナスカ!!!」

地面に激しく蹴り落とされて、クレーターの中心で頓挫するカインのテムジン。サタンはレブナントUに発生させたソードを一際大きく腕を振りかぶり、縦一線に振り下ろそうとした。その時、ジョバンはモニターに映るテムジンの変化に気がついた。機体全体が突如、眩いばかりの金色の光を放ち、その光量の増加に伴い、テムジンのVコンバータ出力が急速に上昇してゆく。ジョバンはテムジンが倒れている今しかチャンスはないと、降下速度を緩めることなく、ソードを真っ直ぐにテムジンの腹部に突き刺した。そして今度は、ジョバンが驚きの表情を浮かべる番だった。

「なんと!?」

テムジンに突き刺さるはずのソードは、テムジンの腹部装甲に触れている時点で完全に止まっていた。サタンの超高出力ソードをVコンバータの形成する仮性ゲートフィールドで遮断したのだ。

「これは・・・!この光に何かあるというのか!?」

驚きを隠せないジョバン。だが、それは無理もあるまい。先ほどカインが感じていた強烈な精神干渉波の波動を、今度はジョバンがその心身に受けていたからだ。テムジンの金色の光を見るうちに、一瞬意識が遠くなり、ジョバンは慌てて頭を激しく左右に振った。気を抜けば精神を持っていかれそうになる。

「精神干渉!?サタンのコックピットはVクリスタルの精神干渉を完全に遮断できるはず・・・。それほどまでに干渉力が強いのか・・・」

テムジンは光に包まれながら、ゆっくりと機体を起こした。背部のマインド・ブースターからは輝ける光の帯が大量に溢れ、それはあたかも翼のように拡がっていき、月面の荒野一帯を照らしている。全身に光をまとう姿はまるで、二対の光の翼をゆっくりとひろげていく天使のようだった。テムジンは立ち上がり、正面のサタンに向けて頭部バイザーを唸りとともに光らせる。しかし、ジョバンはこの状況に驚きこそすれ、恐怖はしなかった。むしろ、嬉しさに震えるほどだった。操縦桿が武者震いで振動するのがわかる。

「なるほど。これで機体性能はほぼ同等・・・。真剣勝負が出来るということですか!!望むところです!」

ジョバンはちらりとコックピット内のエビル・バインダーの制限時間タイマーを確認した。あと、十五秒、決着をつけるには充分な時間だ。二機のVRは少しも動くことなく、互いににらみ合った。テムジンは、ロングランチャーをソード形態に変え、機体の前で構えている。タイマーが残り十秒を切った時点で、ジョバンは突進した。同時にテムジンも大きく踏み込む。勝負は一瞬で決まった。横一線にソードを振りぬいたサタンの両腕は、テムジンのソードによって宙を舞っていた。理論上、一切の物理的干渉力を遮断できるはずのエビル・バインダーの仮性ゲートフィールドを、同程度の力を持って相殺してこれを突き破ったのだった。そして、すかさず返す刀でサタンの腹部を両断しようとする。

「まだです!!」

ジョバンは機体を突進させ、テムジンに渾身の体当たりを叩き込んだ。振りぬかれるはずの腕に衝撃を受けて、テムジンは体勢を一瞬崩した。そこに、ほぼゼロ距離からジョバンは最高出力で胸部のビームランチャーを発射した。下手をすれば、自機も巻き添えを受けかねないこの距離で、しかしジョバンは躊躇無く最後の切り札を使った。テムジンはそのビームランチャーに反応した。しかし、上方にも横方向にもかわせる余地はない。直撃しかありえないはずだ。その時、テムジンは体当たりによってよろけた衝撃をわざと踏みとどまらずに、機体が倒れこむほどに大きく後ろに反らせた。背中が地面につきそうなほど背部をそらせたテムジンの上を、高出力のビームが一瞬で飛翔していった。テムジンの胸部装甲をかすめたビームがその部分を焦がし、鎧を剥ぎ取った。テムジンの後方、約四十メートルでビームは着弾し、爆発を起こす。その爆風を反動として利用し、テムジンはVコンバータの出力を最大にし、マインド・ブースターを吹かした。膨大な量の自律放熱ブラストが地面に吹き付けられ、あたり一面を虹色の草原へ変えた。慣性と重力を無視して無理やり立ち上がり、テムジンはそのまま勢いに乗せてビームソードを真一文字に振った。ジョバンは殆ど本能的に動いていた。機体の上半身をひねって、翼を盾にしたのだ。爆風とソードの衝撃で大きく弾き飛ばされたサタンはしかし、体勢を整えるとそのまま離脱体勢に入った。タイムリミットだ。システムが一般設定になってしまったら戦闘は不可能だ。MSBSの起動中に戦線を離脱する必要がある。

「今日はここまでにしておきましょう。また出会う時を楽しみにしています!」

サタンはきびすを返して加速をかけると、一瞬で有視界から姿を消した。サタンの姿が完全に見えなくなって、テムジンはようやくマインド・ブースターの出力を落とした。機体を包んでいた金色の光も収束をはじめ、それと同時に、機体はがっくりと膝をついてそのまま動かなくなってしまった。機体のパワーがあまりにも強すぎて、各所にかなりの負担をかけたようだ。だが、最も強く負担を受けたのはコックピット内にいるパイロットであることは間違いない。カインは全身の毛穴から汗が吹き出るのを感じながら、その薄れ行く意識の中で、先ほど感じた不思議な精神干渉を思い出していた。あの姿は間違いなく、ニーナだった。生きていたのか・・・。それ以上、思考が働く前に、カインは意識を失っていた。全てのシステムがダウンしたコックピットの中では、カインの首にかけられたクリスタルのかけらが煌煌と光りながら誰かを呼ぶように小さく甲高い共鳴音を鳴らしつづけていた。その音は、やがて一つのメロディーを奏でていく。それは、ローザがフェイ・イェン・ザ・ナイトのコックピットの中で聞いていた、オルゴールの音色だった。オルゴールは意識を失ったカインの子守唄のように、優しく、静かに同じ旋律を繰り返し繰り返し奏で続けた。